チャレンジ

 春。新たなるチャレンジのとき。日本語では挑戦(たたかいにいどむ)という仰々しいものですが、それくらいの決意をもって臨む、ということなのでしょう。
 自由学舎創設時より欠かしたことのない行事の一つスキー合宿では、雲ひとつない快晴の中、全員ケガもなく、白銀の世界を堪能してきました。
 今回、個人的には、昨年からの大きな宿題が残っています。北志賀竜王スキー場の最難関コース、平均斜度30度以上、標高差800メートルを一気に滑り降りるという『木落としコース』をファンスキー(かなり短いスキー)でトライすることです。昨年はコース入り口から下を見て、ビビッて降参してやめました。足がすくみます。身の丈ほどもあるようなコブだらけの、斜面というより絶壁というコース。
 前夜降った雪のため、竜王山頂上付近(海抜2000mくらい)はきれいな樹氷に輝いています。その樹氷の中を滑りながらあまりの美しさに清々しい気持ちにさせられます。が、心の底にセメダインのように貼り付いていることは、やはり、この頂上ゾーンから下のゲレンデに降りるときの方法。例の『木落としコース』を行くか、ロープウェイに乗って降りるかのどちらかなのです。コースの入り口は柵に囲まれ、人一人やっと通れる位の狭さ。その柵には注意書きがいっぱい書かれている。『中級以下の人はロープウェイで降りてください』『今シーズンの骨折者○○名』『最上級者のみのコースです』『全滑走路アイスバーンにつき注意』などなど、とにかくこのコースに入らないような言葉が入り口にひしめき合っているのです。
 で、僕は清々しく樹氷の中を滑りながら『行くべきか、行かざるべきか』悩むのです。『引率の責任者がケガしたら後は困るだろうなあ』『若い先生たちが頑張っているから俺一人欠けても大丈夫かな』・・・などいろんなことが頭に浮かび、ついには『チャレンジしないとこの妄想から抜けられない』という天からの声が来ました。『行くっきゃない』そう決めた後はまた、清々しい気持ちで樹林の中を滑ることが出来ました。
 そしてさあ『木落しコース』です。看板どおり斜面に残る雪は少なく、ガラスのような透明な急斜面。足がすくみます。果敢なチャレンジ精神と目一杯の集中力でアドレナリン満タンにした頭は、僕の身体を動かして、勇気を与え一気に下まで滑り降りていきます。足の筋肉は突っ張り、途中でパンパンになります。滑落していくスノーボーダーたちを横目に見ながら、僕のこの小さいスキーも捨てたもんじゃない、と見直しました。真っ直ぐでない曲線状のスキー板のため、氷の急斜面に引っ掛るポイントは2箇所のみ。その2箇所が僕の身体全体を支え、飛んだターンのあともシッカリと斜面に食いついてくれました。そして、ついに、念願のコースを制覇。難コースを転ぶことなく果敢に降り切った満足感は格別で、即『生ビール』の看板のあるゲレンデ内の店に飛び込んで、一人ビールで乾杯していました。
 一度やれたら、2回目からはもう気持ちが違います。怖さは少し残りましたが、何とか出来るという自信があるので、比較的楽に滑ることが出来るようになりました。
 ひとりひとりにチャレンジの場面は異なり、いろいろな形で表れてくると思います。その時、一歩を踏み出せずに悶々とすることは良くあることですが、それから前に進んでいくことは出来ません。それは、自分の精神にとっても肉体にとっても不自然なことです。全く歯のたたないものに向かっていくのは無謀なことですが、頑張ればなんとかなりそうなものには果敢にチャレンジしてみましょう。チャレンジして目標を達成したら、自分の力量の幅が広がります。たとえ失敗しても、そのことの何が難しいのか、相手を知ることが出来ます。次の作戦を立て、達成するための訓練を積んで、再度トライできるのです。
 チャレンジ。それは自分の可能性を押し広げてくれるもの。さあ、新しい時節を感じる今から、自分の目標を立てて、果敢にチャレンジしていきましょう。

(自由学舎塾長:下田秀明 )

 



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