潮干狩り 自由学舎塾長 下田秀明

  子供たちと自然の中で一緒に遊べる機会をつくりたいとの気持ちから、今まで数多くのさまざまな合宿を行ってきました。しかしどういうわけか今までやったことのなかった潮干狩り。東京湾では養殖した貝をまいてそれを拾う、というイメージが焼きついていて、『それはいやだ』と本能の部分がストップをかけていました。ところが今回の三浦半島の海の公園は、公園が出来た時に一度撒いたきりでそれ以来撒いていない、その後自然に増殖して、今年大発生している、との知らせを友人から聞き、これは行ってみたい、と潮干狩りデイキャンプを企画した次第です。

 真夏を感じさせるまばゆいばかりの太陽の下、自然からの食料の収穫という動物の本能的な喜びを感じることが出来たのは、子供たちにとって本当にすばらしい体験になりました。こうしたほんものの楽しさを味わえたことは、心の奥の深〜いところに宿っていて、一生を送る中で何かの時には、ちょこっと顔を出してきて、もう一踏ん張りの勇気と粘り強さを与えてくれたりするものです。バカ貝(青柳)やムール貝は大きいものが採れましたが、アサリは小さくて持ち帰るのに少しうしろめたい気持ちでした。子供アサリを食べてしまいました。許してねと祈りながらの味噌汁でした。

 予定外のことが起きました。まず、現地に到着した途端、駐車場が満杯で他に駐車するような場所もなく、長時間待たなくてはならなくなりました。『どうしようか?他探してみるか?』『待つよりほかないだろう。運転手二人残して始めてよ』と、1分も経たずに方針が決定。何時間待つのかわからない役も一瞬で決まり、その他全員は潮干狩りに繰り出します。『ここで待っているよ。迷子にならないで帰ってこいよ』と潮干狩り隊は二人の引率に任せて、お昼ご飯の用意に入ります。テーブルや椅子、バーベキュウの準備がようやく終わったと思いきや、場内アナウンスが。『海の公園内では火の使用は禁止されております。みなさまご協力をお願いします』 直火がだめなんだろう、と勝手に判断し、コンロは使えると思いそのまま進めていたら、管理人さんに『この公園では一切の火の使用を禁じています』との直接の指導で、泣く泣く広げた屋外台所を片付けました。『火が使えるところはないのですか』『場内のバーベキュウ場はあるけれど、予約で一杯なので無理ですね、キャンセルがあれば大丈夫かも』とつれない返事。バーベキュウの申込み所に尋ねたら、やはり満杯でキャンセルもなし。仕方がない、並んでいる車でスーパーまで行って弁当買ってくるしかないか、そしたらまた最初から並ぶので駐車場に入れるのはおわるころだなあ、とあきらめかけました。いや、折角用意してきた100本もの焼き鳥を食べない手はない、絶対にここで何とかしなくては、今まで生きてきた人生で何を学んだか、教える立場の人間が簡単にあきらめちゃいけない、と意を決し、猛烈に泣きそうな顔をしながら、『16人もの子供たちがお腹すかせているのでなんとかなりませんか?』と切々と訴えました。しばらくの懇願の末、『テーブルとかはないけど、場所だけなら使って良いよ』とOKサインをもらうことが出来ました。『やったぁ〜』大急ぎで台所の大引越し。焼き鳥と焼きそばのおいしそうな匂いがあたり一面に漂いました。
 場内放送では迷子が次々に登場します。子供たちはここまでちゃんと帰って来れるのかな。今回の注意は「帰ってくる場所の確認」だけでしたが、途中で大引越しもして最初の確認した場所からは移動したので、少し不安がよぎりました。が、ちゃんと帰ってきました。全員。駐車場待ちの先生二人もお昼にはようやく間に合い、今までの困ったことがなかったかのように、おいしくお昼ご飯を楽しむことが出来ました。
 
 下見に来たのに火が使えないことをチェックしていなかったことや、当日これだけ駐車場が渋滞することを予想していなかった、ということがドタバタの一つの原因でしたが、そんなドタバタを意にも介さず、現実の状況に合わせて、各スタッフが自分の判断で柔軟に対応できたこと、予定外の出来事に慌てることもなく、坦々と自分の役割をこなしみんなで楽しめたことは、信頼しあっている人間同士での理想の集団行動のような気がしました。僕がドタバタやっていたことを、見も、知りもしない子供たちは多かったことと思います。

 今春のスキー合宿で、『どうして僕だけ掃除しなくちゃいけいの?みんなにも掃除するように言ってよ』『神さまは君の行動を見ているから、そんな心配はしないで良いから、どんどん掃除をおやり』とのやりとりのあったC君は、今回は何も言わずに、M先生のお手伝いを進んでやってくれました。命令することもなく、みんなが状況に応じてどういう行動をすれば良いのか、が自然に分かり、自然に動けることはすばらしいことです。そういうことの確認が出来た楽しい一日でした。

 



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