食を考えるパート2  自由学舎主宰 下田秀明

  『あなたのからだには、あなたが頑張って食べてあげなければ、養分は入っていかんのよ、あなたの口からしか入らへんのよ。まわりの人がどんなに助けようと思っても、あなたのからだは助けられへんのよ』合宿でのひとこま、料理班の博子先生はこう言いながら、大偏食の生徒の口にお料理が入っていくのを見守ります。

 ニンジン以外の野菜にまったく手をつけない子、カップめんばっかり食べている子、コンビニで買ったおかしで腹一杯になり食事には箸だけつけてちゃんと食べられない子。それぞれの普段の食生活が色濃く反映するのか、親元を離れ開放感からの反動なのか、合宿の初めの日の食事は、食事を作る側にとって、緊張感一杯のときです。
 いろいろな種類の栄養を、どうしたらこの子たちがおいしく食べてくれるのか、食事班の努力が続きます。生活を共にし時間を共有する中で、言葉のやりとりから気持ちの交流が生まれ、信頼感が芽生え始めます。巻頭の言葉はそのときに生まれたもの。満足な食事をすることの出来なかった子が、ついに食事を口に運びます。『おいしい、おかわり下さい』の言葉がこぼれ出た瞬間、『やった!』と顔見合わせる。
 口から入る食べものがどんなに私たちにとってたいせつなものか、言わずともわかっていることなのですが、これがなかなかそうはいかない。日々刻々水分は大量に入れ替わり、たくさんの細胞が生死をくり返す私たちのからだ。骨も筋肉も脂肪も血液もみんなどんどん新しいものと入れ替わり、自然そのもののからだです。脳みそも同じ。だからラーメンばっかり食べていると、大げさだけどラーメン脳になってしまう。ラーメン脳では大学入試に受からんのです。
 ファーストフード大手M社の社長が以前講演会で言っていた話、『私たちのターゲットは今日ここに見えているみなさんではなく、子供たちです。この子供たちが大きくなったときに、私たちの作っているものをおいしいと感じて食べてくれれば良いのです。10年後20年後の味覚を子供時代から作り育てるのです』。企業の戦略によって味覚が作られる。恐ろしいことですが、現実はこういう方向に流れているような気がしてなりません。
 からだと脳とこころはつながっているのですから、赤ちゃんが生まれた瞬間から、もちろんその前の生む土壌である親も、何を飲むか、何を食べるか、大切な問題です。そのからだには、自然の生命あふれるエネルギーをたくさん入れてあげたいです。元気で幸せな生命の源は、まずは食べることにあるのだということを再確認したいと思います。

 

 

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