キャンプに行こう  自由学舎主宰 下田秀明

                                 
 若いときに登山を始めテント泊の楽しさに出会って以来40年、大勢の子どもたちを海へ山へキャンプに誘いました。そして今でも大自然の中を目指してよく出掛けています。いったい何が楽しくそんなに惹かれるのか?この夏のキャンプ風景を回想しながら考えてみると・・・。

朝の木漏れ日


 3泊4日。場所は長野県、標高1800mの高原。少し歩けば2000m級の山々や素敵な花いっぱいの湿原が横たわっています。晴れた夜には落ちてくるほどの満天の星に埋まり、冷たい澄み切った空気を呼吸しながら、みんなその開放感に浸っています。と思いきや、寒さと暗さで怖がって泣いている男の子もいます。時にはバケツをひっくり返したような猛烈な雨の中、ただ雨の止むのを待つだけ。炭に火をつけ鶏一匹丸ごと焼き上がるのをじっと待つ。新聞もテレビも無く他の情報に振り回されない自分を感じている。子どもたちにとっては、周りに急かされることのない自由な本当に楽しい時間。大地のぬくもりや過酷さを肌で感じながら生きている実感を持てる非日常的な空間がそこにあります。雨露をしのぐテントや寝袋、最低限の調理器具と食糧、生きるために必要なものだけしかないことが実に爽快です。シンプルライフの極地。

 そして、キャンプ生活でとても大切だと思うことは、自由な時間がいっぱいあること。極端に言えば、予定は無ければ無いほど良い。自由な有り余る時間をなかなか見つけられない都会での生活からは、うらやましいような状態です。今回も予定は、池の平湿原を歩くことと湯の丸山頂上に登ること、この2つ。どちらも2時間〜3時間の行程です。明け方から晴れたとき、今日は山登りと決め、山頂での雄大な景色を堪能し、午前中にはキャンプ地に戻って来ます。お昼を食べたら午後は完全自由な時間。子どもたちは遊びを見つけるのが実に上手い。昆虫の好きな子、花を愛でる子、キノコに興味のある子、・・・大自然は彼らにとって好奇心の宝庫です。デジカメを持って朝早くから起き出して、湿原に集まってくる昆虫やきれいな花々をカメラに収めている子もいました。300枚くらいは撮ったという。僕も一緒にたくさん撮りました。

 もう一つ大切なことは食べること。用意する時間や手間もそんなにかからず、でもおいしいものを食べたい。そんなとき野外では炭火焼がオススメ。肉や魚だけでなく近辺で採れた新鮮な高原野菜をたんまりと焼いて食べる。今回、ディップソースにバーニャ・カウダ(ニンニク、アンチョビ、オリーブオイル、・・・)を用意したので、野菜が飛ぶように売れました。子どもたちは自分で野菜を焼いて食べる、食べる。ゴーヤを3日間で5本も(自分で買ってきて)焼いて食べた子もいました。これだけ野菜を食べている姿を見たら、お母さんたちも喜ぶだろうなあ・・・としみじみ感じました。基本的には、毎食炭火焼き。朝は豆を挽いて、ホカホカのおいしいコーヒー、炭火焼のパン、昨夜残りのシチューやスープ、昼はやきそばなど鉄板使っての料理、夜は現地調達のさまざまな食材BBQ。炭で焼く料理は実に簡単でおいしい。ほんとうのところ、そして出来ることなら、家でも毎日やっていたい料理です。
湯の丸山山頂と鶏のオーブン焼き 

 キャンプでは、気をつけないといけないことも沢山あります。以前虫にやられた女の子の作文を紹介します。
 『これが一番大きな発見、山では虫よけをせずにやたらと短い衣装を身にまとっていてはならない、ということです。なぜなら山には、かなりデンジャラスな虫さんブヨがいるからです。一見かわいらしい名前のような気がしますが、ブヨにさされるとくるぶしはなくなるぐらいはれて、歩くことができなくなるくらい痛いのです。私は両足やられて、家に帰ってからは、一日中よつんばいで動いていました。いつも元気なK先生でさえも、さされた後はしょぼーんとしていたのでブヨってこわいな、と思いました。』
 この体験の後は、この子も長袖長ズボンをはくようになりました。山では長袖長ズボンを着用すべし、と注意はしていてもなかなか守られないのが常、しかし実体験はやはり一番良く効きます。今回も湿原の近く、ブヨがいました。しかしなんと、朝早く目覚めて起き出すと、辺りはトンボ(アキアカネ)でいっぱいです。特に色の濃い明るいフライシートにはびっしりと留まっています。ブヨを食べに集まってくれたのです。トンボのおかげで怖〜いブヨのいない爽やかな朝を迎えることができました。

 3泊4日の山での生活は、子ども達にとっていろいろなことで大きな実体験となりました。大自然の中で遊び、食べ、眠り、生活したことで、地球そのものからのピュアな刺激をたくさん受けました。もちろんそれは大人たちにとっても同じこと。普段あまり使ってはいないだろう脳みその各部分をくまなく動かしたような、そんなリフレッシュな感覚です。さあ、みなさん、キャンプに行きましょう。地べたに寝転んで地球を感じましょう。

 

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